証券コラム

2015/03/06 山崎元「ホンネの投資教室」

第240回 低金利時代のマネー運用を考える3つの視点

長短共に低金利をどう考えるか

低金利が続いている。短期金利は、福井総裁時代に日銀が政策金利のゼロ金利を一時的に解除した(大失敗だったが)時期を除いて、「ほぼゼロ」がずっと続いている。加えて、デフレ脱却を目指して日銀が長期債を多額に買い入れていることもあって、長期金利も超低水準にある。現在、10年国債を買っても、年率0.5%を大きく下回る利回りしか得られない。(3月4日は0.045%だった)

こうした環境下、特に、かつて長期金利なら数%の利回りがあった時代を覚えている高齢者は「何とかもう少し高い利回りを得られないか」と焦りがちになる。一方、金融機関はしばしばその心理につけ込んで、リスクのある商品(傾向として、リスクの大きな商品は同時に手数料の大きな商品でもある)を彼らに売り込もうとする。その結果、非合理的であると同時にしばしば不幸な結果に終わる、「残念なマネー運用」に至ってしまう。

今回は、特に長期金利も含めて低金利な環境下で行うマネー運用で気に懸けておきたい視点を3つお伝えしよう。

第1のポイント、「低金利下では現金の機会費用が小さい」

長短両方が低金利という事実から直ちに帰結出来るのは、「資産を現金のまま持っていても、(それほど)もったいなくない」ということだ。

多額の現金を文字通り現金で持っていてタンス預金するのは、防犯上も物騒だし、資産管理上も不都合なことが多いだろうから、この場合の「現金」は、銀行の普通預金や、証券会社のMRF、MMFのような毎日出し入れ出来る短期性の金融商品を含むと広く解釈して欲しい。

10年国債の利回りでも0.4%、メガバンクの10年定期で0.1%~0.15%(銀行・預金額による)ということなら(共に20%の税金を取られる)、金利がほぼゼロであっても、お金を自由に出し入れ出来てカードなどの決済にも使える普通預金にお金を置いておくことの「相対的な不利感」はごく小さい。

ある選択肢を選んだ時に、諦められた別の選択肢に伴ったはずの利益のことを元の選択肢の「機会費用」と呼ぶが、長短共に低金利の環境下では、現金を保有することに対する機会費用が小さいのだ。

応用を考えると、現金保有の機会費用が小さいことに着目すると、マネー運用を「リスク資産+現金(=無リスク資産)」という形に単純化することが正当化されやすくなる点に注目出来る。

長期の債券に短期金利よりも十分高い利回りがある場合には、(1)短期性資産(≒現金)の状態でお金を持つことのコスト(諦めるリターン)が大きいし、(2)株式債券の分散投資効果が期待しにくいので、「株式+(長期の)債券」というオーソドックスなアセット・アロケーションの有効性が低下する。

後者に関して補足しよう。株式と長期債を持つと、以下のような「傾向」が生じると期待される。

仮に、(A) 不景気になった場合に企業の利益が圧迫されるから株式のリターンは不調(マイナスもあり得る)だが、長期金利が低下して長期債価格が上がる。他方、(B) 好景気になった場合、長期金利が上昇して債券価格が下がり債券リターンは不利になるかも知れないが、企業収益が伸びて株式のリターンが高くなる。

つまり、株式と債券を組み合わせて持つ事で、お互いになにがしかリスクを打ち消し合うことが期待出来るのだ。

日本にあって、1990年代、2000年代は、株価が低迷する時期が長かったが、金利が低下傾向にあったので長期の債券は好調だった。この時期のデータを使うと、株式と債券の分散投資効果が有効に働いていて「長期の分散投資が有効です」という説明資料が作りやすいのだが、これ以上長期金利に低下余地がなくなると、株価が下落する時に、債券価格の上昇がこれをカバーする効果を期待出来なくなる。

債券を持つことの分散投資効果は、「これまで」と「これから」では異なると考えられる。漫然と同じアセット・アロケーションを持つべきではない。

通常環境下のアセット・アロケーションで「国内債券」として持つべき部分に関しては、現金、普通預金、郵便貯金、MRFに加えて、当面動かす必要がない大きな資金に関しては、個人向け国債の変動金利10年満期型を持つといいだろう。「変動・10年型」の個人向け国債は、実質的には半年単位の短期運用であるが、元本保証であることに加えて、利回りが長期金利の上昇に対して約3分の2追随出来る、いい意味で「無難な」運用対象だ。

国債なので、銀行預金のように預金保険の範囲を気にする必要がない。さすがに財務省は、「銀行預金よりも安全です」とは宣伝しないが、信用リスク面での気遣いが不要であることは個人向け国債の大きな長所だ。

第2のポイント、「小さな利回りアップを求めるのは危険だ」

低金利に焦る個人が陥りがちで、まずい運用は、個人向けに売り出されている社債を買ったり、毎月利息のように分配金がある投資信託を買ったり、といった、本人の理解の上では「小さな」リスクを取った運用だ。

後者は、為替リスク(ひどい場合はブラジル・レアルのような新興国通貨の)があったり、投資対象(米国のリートなど)のリスクがあったりで、決して小さなリスクではないのだが、セールスマンは分配実績の安定を強調して売るので、顧客側が安定的に運用出来る商品だと勘違いして投資しがちだ。

社債の場合は、発行企業の信用リスクがある分、国債よりも利回りがいい訳だが、個人は、信用リスクがどのくらいの大きさで、どの程度の利回りがあればそのリスクに見合うのかを判断することが困難だ。

「信用格付けを参考にすればいい」というという意見は、発行体から格付けの手数料を貰う格付け会社のビジネスモデルが存続している以上採用できない。格付け会社は「敵の味方」である。

また、仮に彼らが格付けをビジネスの利害を離れて誠実に行ったとしても、信用リスクの判断は難しい。機関投資家が社債に投資出来るのは、彼らが大きな資金を持っていて数十、数百の銘柄に分散投資出来るからだ。分散投資が効かない、せいぜい数億・数十億円単位の運用資産の一般個人の場合、社債投資は止める方がいい。

そもそも、大口機関投資家に売るよりも手間とコストが掛かる個人に社債を売る理由が、その社債の条件は機関投資家から見て魅力が乏しいからだということ以外にあり得ない。信用リスクの評価が自分で出来なくても、「大人の経済常識」を持っていれば、個人向けに売られる社債の胡散臭さに気づくことが出来よう。

さて、実は、長短共に低金利になって焦るのは、個人投資家ばかりではない。金融機関のような機関投資家も運用難に悩む。

銀行のリスク管理ルールにあって、国債は信用リスクのウェイトがゼロだ。これまで、貸出に回すことが出来ない資金は、長期国債で運用すると、小さいとはいえ利益を稼ぐことが出来たが、長期金利がここまで低下すると、単に国債を買っているだけでは、経費を賄うことが出来る利ザヤを稼ぐことが出来ない。彼らは毎期の経営計画を立てるが、低金利では期間に必要な利益を出せる計算が立たなくなる。そこで何が起こるだろうか?

端的に言って、過大なリスク・テイクが生じやすい。

満期残存5年の中期国債を10年の長期国債に、さらに超長期国債に、と金利リスクを大きくして行く方向もあるし、為替リスクを負って外貨建ての債券・預金で運用する道もある。「日銀も買っているから」という理由で投資の行内稟議を通しやすいREIT(不動産投信)を買う手もある。あるいは、「一見リスクが小さそうに見える」仕組み商品に投資することも起こりそうだ。何れも、銀行がバランスシートでリスクを増やす要因だ。

筆者は、外資系の証券会社に勤めたことがあるが、その経験から考えて、低金利下で運用難に悩む金融機関(特に地銀、信用金庫、農林系金融機関)は、仕組み商品セールスの格好のターゲットであるように思える。

彼らのリスク商品運用が、直ちに破綻すると迄は言わないが、彼らが低金利下で運用リスクを蓄えていることは確実だ。

今後、金利が上昇する時、長期国債の値下がりと相俟って、リスク商品での運用が裏目に出ると、預金を受け入れる金融機関が破綻に至る可能性が十分あるように思われる。

特に、地銀や信金に関しては、「一人、一行、1,000万円迄」という預金保険の限度を十分に意識して取引すべきだと強調しておきたい。転ばぬ先の杖である。

第3のポイント、「実質金利の将来変化が大切だ」

金利と運用というテーマでよく指摘されるのは、実質金利の水準だ。たとえば、「今後インフレ率が上昇すると、利回りの堅いものの金利だけでは、物価に追いつけなくなるので、金利はインフレ率を差し引いた実質金利に注目して下さい」というようなことがよく言われる。

これはこの通りで、内容的に間違っている訳ではないのだが、インフレ対策を脅しにしてリスク商品を売ろうとするのは、「嫌な感じ」ではある。もっとも、この逆で、アベノミクス相場の手前の時期まで「今はデフレなのだから、お金を現金で持っていても実質価値は目減りしないので、慌てる必要はない」と思っていた人は賢かったといえるだろうから、実質金利水準を気にすることが悪い訳ではない。

但し、できれば一歩進めて、実質金利の「その時の水準」だけでなく、「変化の方向」に注目したい。

株式でいうと利益の実質成長率、不動産でいうと家賃の実質的な値上がり率を一定とすると、理論上収益資産の価格は、実質金利が上昇すると低下し、実質金利が低下すると上昇することになる。

デフレの時期は、低金利ではあっても、デフレの進行と共に実質金利が上昇したので、株価は下落した。他方、アベノミクスによるインフレ目標付きの金融緩和は、実質金利をマイナスゾーンまで低下させたことで大幅な株価上昇を実現した。

実質金利に積極的に大きな影響を与えることができるのは金融政策だが、金融政策の効果と影響を評価する時には、「実質金利の変化の方向と大きさ」に注目しておきたい。

ここで注意したいのは、主な問題が「今後の変化」にあることだ。現在の実質金利が長短共にマイナスであるとしても、そのことは、「現在の資産価格が高くてもいいこと」の説明にはなるが、現在の資産価格が既に実質金利を反映していると考えると、今後のリスク資産のリターンが高いと予想することの理由にはならない。

この点で、今後の実質長期金利の上昇を予測している政府の中長期の経済見通しはかなり不気味である。例えば、2015年2月12日に行われた経済財政諮問会議に内閣府が提出した「中長期の経済財政に関する試算」を読むと、株式への買い意欲は大幅に後退するはずだ。

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