証券コラム

2015/06/05 山崎元「ホンネの投資教室」

第246回 個人のインデックス投資、4年間の進歩

~「全面改定 ほったらかし投資術」(朝日新書)の変更点~


「全面改定」の背景

6月12日に「全面改定 ほったらかし投資術」(朝日新書)が発売される(以下「改訂版」と表記する)。個人のインデックス投資を扱うブログ「梅屋敷商店街のランダムウォーカー」の管理人で自身も個人投資家の水瀬ケンイチさんと筆者の共著「ほったらかし投資術」(以下「前著」と表記)の全面改訂版だ。

前著が出版されたのは、2010年の12月だった。あれから約4年半が経過したが、この間、インデックス投資に関連して複数の変化があった。

幸い、多くの変化は望ましい方向への変化だった。

先ず、インデックスファンドに有力な新商品が幾つか登場した。前著には、「商品ガイド」として、読者の投資対象になり得るインデックスファンドの商品を消化した。改訂版でも、水瀬さんの選択とコメントでインデックスファンドの「ミナセ・シュラン」と称する商品ガイドを載せたが、対象商品の半数程度が入れ替わった。

信託報酬水準がより低いファンドが主力アセットクラスで複数登場したことや、ETFの新顔が登場したことなどが、主な理由だ。今回リストから外れた商品と新登場の商品の差は微差であり、もともと前著の商品を持っていた方が慌てて投資対象を入れ替えるには及ばないのだが、新しく買う商品を評価するとなると順位が入れ替わる。

商品リストは当然共著者である筆者も目を通しているが、商品評価の考え方は前著の段階で既に確立されていて、水瀬氏と筆者では完全に共通であり、今回は、ブログを通じて新商品情報に接することが多く、現実のインデックス投資家でもある水瀬氏にお任せすることにした。

尚、ETFについては、日興アセットマネジメント社の今井幸英ETFセンター長に著者2人でインタビューを行い、たっぷりページを割いて掲載した。他の章は投資初心者をかなり意識した内容と書きぶりになっているが、この鼎談では、些かマニアックな内容も削除せずに載せたので、実際のインデックス投資家でも詳しく知らない点が「そういうことだったのか」と幾つか分かるような内容になっていると思う。

インデックス商品の登場や、既存商品の信託報酬率引き下げのような「良心的な変化」(たとえば「SMTグローバル株式インデックス・オープン」)のような変化に加えて、ネット証券で外国株式特定口座対応が進んだことも、インデックス投資家には好ましい変化だった。

加えて、前著では「日本版ISA」として構想段階だったNISA(少額投資非課税制度)が昨年からスタートし、DC(確定拠出年金)も格段に普及が進んだ。著者の水瀬氏はもちろんNISA口座での投資を開始したし、同氏の勤務先がDCを導入したこともあって、改訂版はNISAとDCの具体的な利用手順ガイドにもなっている。

詳しくは改訂版を見て欲しいが、DCとNISAを合わせても資産運用額の半分に満たない「ややお金のある普通の投資家」の場合、DCの運用内容は「外国株式インデックスファンド」が100%、NISAの運用内容は「TOPIX連動型ETF」が100%とすることが、「大半の場合最適」のはずだ(理由は2つある)。

どちらにあっても、バランス・ファンドが最適解になることは殆ど無く、また、現実のNISA口座では投資家が少なくない毎月分配型投信は、NISAの趣旨に合っていないとして、目下金融庁が問題視している。

尚、前著で最もお勧めした運用戦略(【配分B】、p100~101参照)である「国内株式」50%、「先進国株式」40%、「新興国株式」10%を2010年の12月末に買って、2015年の3月末まで「ほったらかし」で持ち続けた(分配金は再投資するが)パフォーマンスを計算してみたら約95.1%(年率複利で17.0%)となっていた(SMTシリーズのインデックスファンド3本の分配金込み基準価額で計算したので、現実の投資パフォーマンスに近い)。

アセットクラス別のパフォーマンスは「先進国株式」が最も良く(122.6%)、次いで「国内株式」(85.4%)、意外に冴えなかったのが「新興国株式」(33.6%)だった。当時は、最もリターンが高いのはきっと「新興国株式」だろう、と思っていたから、意外な結果だ。

全面改訂版のインデックス投資手順

改訂版では、(1) 初心者が迷い無く実行出来るようになるべく割り切った簡単な運用手順を、(2) できるだけ具体的に丁寧に説明する、方針を採って、インデックスファンドを使った運用方法を説明することに紙幅を割いた。

中核部分である運用手順の要約を(出し惜しみせずに!)ご紹介すると、以下の通りだ。

(1) 当面必要になるかも知れないお金を銀行の普通預金に置く。金額は絶対に借金の必要が生じない程度の余裕を持って(たとえば通常の生活で3カ月分、もしくは何かあったときのために2年分の支出額)。残った当面使わないお金を「運用するお金」なのだと認識する。

(2) ネット証券に口座を開く。

(3) 確定拠出年金、NISAについて自分に利用可能な枠を確認する。両者とも、使える最大限に利用すること。NISAは銀行ではなく証券会社(含むネット証券)に口座を開くこと。

(4) 運用するお金の中で、「リスク資産」を持つ「金額」を決める。この場合、リスク資産を「1年で投資額の3分の1くらいの大損をするかもしれないが、平均的には銀行預金よりも5%利回りが高く、幸運なら大損の確率と同じ確率で4割くらい儲かるかも知れないもの」だと思って、いくら買いたいかを決める。

(5) 「リスク資産」に配分したお金を、50%はTOPIX連動型のETF(Exchange Traded Fund=上場型投資信託)に、50%を外国株式に連動するインデックスファンドに投資する。商品選択の基準は、最も手数料の安いもの。銘柄は、確定拠出年金を考慮しない場合、本書執筆時点で、「TOPIX連動型上場インデックスファンド」(コード番号1308)、「ニッセイ外国株式インデックス・ファンド」である。

(6) 確定拠出年金とNISAには、リスク資産を集中し、全体の合計で「国内株式」、「外国株式」が50%ずつになればいい。両口座の利用枠で足りない分については、ネット証券の口座で投資する。

(7) 「運用するお金」で「リスク資産」で持たないお金を「無リスク資産」で運用する。内訳は、(1) しばらく動かさないが絶対に損したくないお金は「個人向け国債・変動金利10年満期型」に、(2) 頻繁に出し入れするお金は銀行の預金か証券会社のMRF(マネー・リザーブ・ファンド)に配分する。(3) ただし、銀行預金は「1人で、1行当たり、1千万円」までに。

(8) モニタリングとメンテナンス

(9) 主に、お金が必要な時に運用商品を売って、お金は気持ち良く使う

筆者の単著「全面改定 超簡単お金の運用術」(朝日新書)の読者には、同書の超簡単運用法にネット証券、NISA、DCなどの手続きを加えたものに近いと思って頂くと概ね近い。

今回の「ほったらかし」の改訂版では、それぞれのステップを水瀬氏と筆者が2人がかりで、「初心者向け」を念頭に丁寧に説明した。

尚、前著では水瀬氏の担当パートと、筆者の担当パートがはっきり分かれていたが、改訂版では、両著者の文章が、原則として自由に交じり合っている。前著の読者は、「この文章を書いたのは、水瀬・山崎のどちらだろうか?」と推測しながら読む楽しみがあるかと思うが、改訂によってより共著らしさが増した。

変わらない「考え方」

現実の投資対象として、アクティブ運用商品に対して、インデックス運用商品の方が明らかに優れているという結論について、前著と改訂版に変化は全く無いし、共著者の意見は一致している。

事実として、(1) パフォーマンスで見てアクティブファンドの平均はインデックスファンドの平均を下回っており、(2) 相対的に優れたアクティブファンドを「事前に」特定する方法はない。加えて、(3) アクティブファンドの方が手数料水準は高い(ノーロード以外は問題外だし、信託報酬の差が大きい)。論理的に考えて、アクティブファンドではなくインデックスファンドに投資する方が優れているという結論は「動かしようがない」。

これは、筆者は何度も原稿に書いて発表したり、講演やイベントなどで話したりしているが、有効な反論を受けたことは一度も無い。アクティブ運用を売りたい人は、この議論には直接反論せず、夢や信念に対する共感を呼び込むレトリックを弄するしか手がないのだ。

共著なので、かなり手加減をして書いているが、この点は前著と改訂版で全く変わらない両著者の認識だ。

これに加えて、運用商品のリターンは、「(A)市場リターン+(B)スキル・リターンー(C)手数料」と分解出来、同じアセットクラスの商品を比較すると(A) は共通であり、プロも含めて第三者が(B) を評価出来ない以上、(C) で優劣を決めることが出来ることを説明した。この点を明確に説明したのは、説明方法として改訂版の進歩の一つかと思う。

また、派生的に、運用商品を評価する場合には、先ず(C) を評価すべきで、(A) やまして(B) を運用商品評価に「混ぜてはいけない!」ことをはっきり説明した点は、「良心的な投資の本」として前進した点であるように思う。

この考え方によって、現存する投資信託商品の99%以上が、はじめから検討する必要のない物となる。関連業界も含めて金融・運用業界には不都合だったり、寂しかったりする話だが、一般投資家、特に投資の初心者には投資がよりシンプルで間違えにくいものになるので歓迎すべき話だろう(そして、何と言っても「正しい!」のだから)。

共著者間の不一致点

重要な多くの点で意見の強固な一致を見る共著者なのだが、水瀬氏と筆者では見解が異なり、それがそのまま載っている点もあるので、最後にご紹介しておこう。

どちらが正しいかは、本を読んでみて、読者が判断して欲しい。

(その1)生活防衛資金は生活費の何ヶ月分必要か?

筆者は「生活費の3カ月分程度」を銀行の普通預金に置けば、あとは投資してもいい(注;全てリスク資産とは限らない)と言っており、水瀬氏は「生活費2年分程度」を投資資金とは別に預貯金で持つべきだと言っている。

筆者は投信でも債券・預金でも数日で現金化出来ることを重視しており、水瀬氏は生活防衛資金の存在がもたらす精神的余裕の重要性を強調している。

(その2)リバランスは定期的にか、必要に応じて随時か

いわゆる「リバランス」に関して、水瀬氏は年に1度の大切な手続きであると説明し、定期的リバランスの効用を説く。一方、筆者は、「1年に1度」は自分の都合であり、必要があれば随時行えばいいとの考えを述べた。

両者の意見の隔たりは大きいように思われるかも知れないが、現実には、(1) 資金の増減の際にリバランスが出来ること、(2) ほとんどリバランスが要らないような「ほったらかし運用」を前提とした運用簡便法を紹介していること、(3) 両者の折衷案も書いてあること、などで、読者が現実の運用で困ることはないと思う。

(その3)インデックス投資の理由は「資本主義の成長を信じるから」か?

改訂版の複数の箇所で水瀬氏は、人間の欲望と市場によって動く資本主義経済の成長の可能性を信じることがインデックスと投資の根本だと説く。

一方で、筆者は、「なかなかしぶといものだ」という程度に資本主義経済を信頼しているが、「必ず成長する」と信じているわけではない。そして、「低成長あるいは、経済が成長しなくても(理論的にはマイナス成長でも)」株式投資にはリスクなりのリターンが期待出来ると考えている。

日本はこれから低成長の時代を迎えるかも知れない。「低成長でも株式投資は儲かる」ことを納得しておく方がより安心だと思うのだが、いかがだろうか。

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