証券コラム

2015/12/25 山崎元「ホンネの投資教室」

第260回 FPの皆さんに聞いて欲しい5つの要望

FPが無くなって欲しいとは思っていない!

今年のある忘年会で、FP(ファイナンシャル・プランナー)業界のある重鎮に、「山崎さん、近い将来無くなる職業として、『FP』をあげておられましたね」と言われて、しばし考え込んだ。

どこに書いたか、あるいはアンケートにでも答えたのか、思い出せないのだが、確かにそのような事を言った覚えはある。

だが、運用の意思決定にあっても、「予想」と「あって欲しい将来」とは、意識的に区別しなければならない。

予想の問題として、FPの職業分野の大半がコンピューター(利用する形はスマホかも知れないが)で置き換えられる可能性はあると思う。今後、10年から20年くらいの期間で、現在は知的とされている職業の多くで、人間よりも役に立つコンピューターとプログラムが出来る公算は大きい。

顧客の経済的な状況を把握して、家計管理、保険、老後対策、税金、相続、資産運用、不動産などについてアドバイスをすればいいのだから、FPの仕事は、コンピューターの学習に馴染みやすいように思われる。何と言っても、お金に換算して判断できることが多い点は、コンピューターの学習に好都合だ。確かに、早い段階で人間がコンピューターに負ける職業であるかも知れない。

現在でも「フリーだと、プアーなので、FPでしょう」などと言ってみたくなるくらい、FP業務単独で食べているFPは少ない。

もともと、弁護士、税理士や司法書士のように、FPの資格がなければできない独占的な業務がある訳ではないので、「資格(だけ)で食う」のは難しい仕事だ(「評論家」も同様の意味で難しい仕事であるが…)。

もっとも、予想の問題として、職業としてのFPに明るい未来が見えないとしても、FPという職業が消滅してしまうといいと、筆者が望んでいる訳ではないことは強調しておきたい。

大きな理由は、金融知識の普及にFPの力が必要だからだ。現在の日本では(欧米でも本質的に大差はないと推察するが、それにしても…)老いも若きも、多くの生活者が、正しい金融常識を持っていない。今後の世代に対しては、学校教育などを通じて状況の改善を図る余地があるが、問題は、高齢者も含めて既に大人になってしまった世代への知識(というよりも「常識」)の普及だ。

彼らが、正しい金融常識を持つためには、その伝え手が多数必要なのが現実であり、その担い手となり得る集団は「クリーンなFP」以外に思いつかない。

最終的に目的を果たしてくれれば、その主体が人間のFPでも、ロボットでも、賢いスマホでも構わないが、当面は血の通った人間のFPに期待するしかない。

将来のコンピューター・プログラムに良いアドバイザーになって貰うためにも、模範となり得る優れたFPが、たぶん分野別にだろうが必要であろう。

FPの皆さんには、個人的に大いに期待している!

FPに「こうして欲しい!」と思うこと

以下、FPに、「こうして欲しい」、「こうなって欲しい」と思う筆者の希望を述べる。

(1)「アドバイザー」と「売り子」の立場を区別する

FPには、顧客にアドバイスをする「アドバイザー」の仕事と、保険や運用商品などを販売する「売り子」の仕事を混ぜて行って欲しくない。

金融機関に所属する多くのFPが、名刺にFPの資格を保持していることを印刷し、独立しているFPでも保険の代理店、証券仲介業などを行っている方が多いことを思うと、現実的には難しい注文なのかも知れない。

しかし、少なくとも顧客の立場から見ると、「相談相手」と「金融商品の購入窓口」をしっかり分けることが大切だ。最近出版した拙著「信じていいのか銀行員」(講談社現代新書)にも書いたが、退職金の運用を退職金が振り込まれた銀行の銀行員に対して相談するような相談が(無料であっても)、「最低の相談」である。

もちろん、顧客の側では、FPに対しては、「相談」に目的を絞って、FPが使う時間と知識に対して適切な対価を「相談料」として支払うことが望ましい。この点は、大いに強調しておきたい。

そして、金融商品の購入・売却に利用する相手は、相談相手とは別に、コストや利便性で選ぶことが合理的だ。

金融機関に所属するFPや、代理店・仲介業などを営むFPは、金融商品の販売にあっては、「FP」を前面に出さずに、堂々と「売り子」として振る舞うべきだろう。

商品毎の利益の差が厳然と存在する以上、金融商品の売り子が「顧客にとって、最善のアドバイスを提供する」ことには、無理がある。「そうではない。私は最善のアドバイスを提供できている」という人は、99%以上が、自分が見えていないか、敢えて自分を見ていないか、確信犯的な嘘つきか、の何れかだろう。

(2)自分が得る実質的な手数料を示し、顧客の同意を得る

金融ビジネスの現場を考えると、上記(1)は、かなり非現実的だ。もう一歩、現実に近づく妥協案として提案したいのは、金融商品の「売り子」が顧客から取る実質的な手数料の明細を顧客に示して、その手数料に対して、顧客の同意を得ることだ。

ここしばらく、消費税の軽減税率に関する議論が喧しかったが、その際に出て来た「インボイス」を手数料に関して作成するのだ。

例えば、販売手数料3%(税込み3.24%)で、信託報酬が1.8%(税込み1.944%)の投資信託を1千万円顧客に買って貰う場合、顧客は、先ず購入時の手数料として32万4千円支払い(累計51万8400円!)、一年目に19万4400円の信託報酬を払い、そのうち8万6400円は、目の前のセールスマンの所属する会社の収入となる、という状況を顧客に知らせるのだ。

FPを名乗る売り子が売るのであっても、堂々と手数料を提示して、顧客が、そのFPのアドバイスに対して「1年目に51万8400円、それ以降毎年19万4400円支払う価値がある」と心から思うなら、そうすればいい。

FPを名乗って金融商品販売から利益を得るのであっても、このくらいはっきりとした商売をするなら、商道徳的に適切だと認めてもいいのではないか。

もちろん、どのような運用内容のファンドであっても筆者は、このような投信を買うことを他人には勧めないが、これに納得できる顧客だけが、この商品を買ったらいい。

加えて、デリバティブ商品などで、実質的な手数料を示せないものは、売ってはいけないことにすればいい。仕組み商品等を実質的な手数料を提示して売ってもいいが、その計算等が不適切な場合は、業者及び売り子を処分の対象にすべきだろう。

過剰な乗り換え勧誘を防ぐ上でも、あるいはEB債のような本来は個人向けに販売することが不適当な商品の販売を無くするためにも、「手数料インボイス」の作成と、顧客の同意の署名取得の義務付けは、いいアイデアではないだろうか。もっとも、これは、FPの皆さんに訴えるよりも、金融庁に掛け合うべき要望かも知れない。

(3)「自分の意見」と「適切なアドバイス」を区別する

資産運用にあっては特にそうだが、自分が「いいと思うこと」と「アドバイスとして適切であること」を明確に分ける必要がある。FPのアドバイスにあっても、これは重要なポイントだ。

分かりやすいのが、「国内株式」に投資する手段のアドバイスだ。

国内株式に関して、FPが、個人として「好きなアクティブファンド」や「(高く)評価するアクティブファンド」があることは、本人の心の自由なので、それはそれで構わない。

しかし、「アクティブファンドの運用成績(手数料差し引き後)の平均はインデックスファンドに劣る」ことと「良いアクティブファンドを、事前に選ぶことは出来ない」ことは、内外で長年に亘って観察されてきた強力な事実であり、職業人としての「アドバイスのレベルでは」、インデックスファンドよりも手数料が明確に高いアクティブファンドを他人に勧めることは不適当だ。

「良いファンドを選ぶのが自分の仕事だ」、「自分は良いファンドを選ぶことが出来る」、「良いファンドを勧めたかどうかは結果を見て判断して欲しい」、「顧客が満足するアドバイスならいいではないか」といった言い分に対しては、順に「仕事だということと、出来るということは違いますよ」、「あなたは自信過剰です」、「小さなサンプルで能力は判断できないのですから、それは不適切な『開き直り』でしょう」、「正しいアドバイスをする気がないのなら、FPなど止めた方がいいのではないでしょうか」と批判しておこう。

顧客の側では、「国内株式のいいアクティブファンドはありますか?」と質問して、信託報酬の安いインデックスファンド(ETFないしは、ノーロードの投信で、信託報酬が相対的に低いもの)以外のファンドを勧めるFPがいたら、そのFPは無知か嘘つきだと思えばいい。

これは、FPやラップ口座の適否を見分ける上で、分かりやすいテストだ。

(4)正しい運用知識を持つ

当然のことながら、適切な運用アドバイスをするために、FPには、正しい運用知識を持っていて欲しい。

以下、多くのFPが勘違いしている可能性が高いと思う資産運用のポイントを6つ挙げる。FPの皆さんには、知識の確認に役立てて頂くといいし、投資家である読者には、FPをテストする際に役立てて頂いてもいい。

(a)お金は使途が自由だ。お金を何に使うかは「適切に運用してから」、後で決めたらいい。資金使途と運用商品選択を絡めることは不適切だ。

(b)リスクの大きさは、リスク資産(の最適な組み合わせ)への投資額で調節するのが分かりやすい。投資家のタイプによって、投資すべき運用商品の種類が変わるという考えを疑うべきだ。

(c)運用期間が長期になってもリスクは縮小しない。

(d)ドルコスト平均法は、積立貯蓄の習慣と親和性があるが、投資した金額のリスクを縮小する訳ではないし、機会費用が発生したり、手数料が余計に掛かったりする弊害もある。

(e)運用商品を選ぶ第一の基準は手数料である。

(f)インカムゲインとキャピタルゲインは「合わせて考える」事が基本だ。特に、高齢者はインカムゲイン中心の運用がいいという考えは間違い。

(5)「魚の釣り方」を教えて欲しい

筆者にも経験があるが、コンサルティングの仕事の難しいところは、顧客に必要で適切な知識を教えてしまうと、次の仕事が無くなることだ。

しかし、古来より「魚を渡すよりも、魚の釣り方を教えるのが、真の親切だ」というようなことが言われるように、真に親切なアドバイスとは、顧客を、将来アドバイザーを不要として、アドバイザー無しで適切な意思決定が出来るようにするようなアドバイスだ。

理想論であるかも知れないが、FPの皆さんには、是非こうしたアドバイスをしようとする人であって欲しい(もちろん、筆者自身もそうでなければならない!)。

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