証券コラム

2016/07/19 山崎元「ホンネの投資教室」

第274回 ロボでも人間でも運用アドバイザーは何を訊くべきなのか?(その1)

いわゆる「フィンテック」がブームとなり、その要素の一つにカウントされるようになったことで「ロボアドバイザー」が注目されている。ロボアドバイザーの多くは、投資家に対して幾つかの質問を投げかけて、情報を収集し、これと資本市場に関するデータとを組み合わせて、「個々の投資家に合ったポートフォリオ」をアドバイスする建て付けになっている。

一方、金融機関のセールスマンやファイナンシャル・プランナーなどの人間が顧客に運用のアドバイスを行う場合も、幾つかの質問をして相手の情報を集めてアドバイスを行うが、それぞれの専門家がどのような質問を行って、アドバイスを作っているのかは、多くの場合完全に手続化されている訳ではないだろうし、特に、第三者の立場では把握しにくかった。

この点、各種のロボアドバイザーが開発され、公開されることで、「運用アドバイスのために必要な質問は何なのか?」という問題が、具体的に考えやすくなった。

ロボアドバイザーでも人間の専門家でも、運用アドバイスを行う上で、(1)顧客に訊くべき必須の質問、があるだろうし、(2)運用アドバイスのためには顧客に訊く必要がない質問、(3)アドバイスに必要ないけれどもビジネス上の都合で訊いている質問があることだろう。

必要な質問とその答えに対する対応を網羅的に論じることは、半ばロボアドバイザーを開発するに近い手間が掛かるので、本稿の手に余るが、典型的な質問点の幾つかを手掛かりに、「運用アドバイスに必要な情報は何か」を考えてみたい。

(1)運用期間は聞いても良いが、これでリスクは決まらない。

ロボアドバイザーにしても、ファイナンシャル・プランナーにしても、アドバイス対象者の想定運用期間を直接ないし、間接的に聞こうとする場合が多い。

運用の期間は、極端に短い場合には(たとえば1年以内)、取引手数料をマイナス・リターンとして評価した場合に最適な運用内容自体を変化させる可能性があるので、知っておく必要があろう。しかし、普通の個人に対しては、向こう2、3年なのか、10年くらいなのか、数十年に亘るのかということを聞く意味があまりない。

先ず、個人の運用金額の場合、ポートフォリオの変更に当たって小回りが利くので(※1)、長期間固定される前提でポートフォリオを考えることは、無意味であるだけでなく、愚かでもある。将来、新しい情報が得られたり、事情が変化したりした場合には、ポートフォリオを状況に応じて調整すべきだ。

運用計画の最適な想定期間は、運用期間全体の長さによってではなく、ポートフォリオ調整の取引コストと運用環境の変化スピードなどによって決まる。

例えば、実際にはあり得ないが取引コストがゼロなら、新しい情報を刻々と織り込んで、必要だと思うなら、毎年、毎月、毎週、毎日、毎時、毎分、毎秒、…、アセットアロケーションを変えても構わない理屈だ。

実際には、個人投資家の場合、小さいとはいえ取引コストが掛かるので、1年から数年くらいのタイムホライズンで運用計画を考えるのがいいだろう。

よくある間違いは、「運用期間が長いから大きなリスクを取る事ができる」という想定に基づくもので、運用期間の長さでリスク拒否の度合いを変えるアセットアロケーションの判断プログラムや、資金の運用期間に応じてリスクの大きさが異なる運用商品を勧めるようなアドバイスがこれに当たる。

また、取引コストの問題を別とすると、運用期間の長短によって最適な運用戦略は殆ど変化しない。例えば、運用期間が1年だからといって短期的に上手く儲ける方法がある訳ではない。株式投資であれば「長期的に有望だ」と思える銘柄は、短期でも期待リターンが高いと考えるべきなので、これを保有することが、短期の運用でも最適な戦略になる。

短期でも長期でも、いい投資対象は案外変わらない。ただ、そこで期待したリターンが「いつ」実現するのかは、残念ながら予想できない場合が殆どだ。

また、仮に短期的に真に有望だと思える戦略なり投資対象なりがあれば、投資期間が長い資金だからといってそれを見送るのは、明らかに愚かだ。

「短期の運用戦略が、その都度結局長期的にもいいと思う運用戦略になり」、「短期の運用判断の結果をつなげたものが、長期運用となり」、あくまでも結果的にポートフォリオには大きな変化が無かった、というのが、一見ほぼバイ・アンド・ホールドに見えるような長期運用の「正しい姿」なのである。

尚、完全積み立て方式の企業年金の年金ALMを考えるように、将来の支出予定を負債として意識する場合は、負債のキャッシュフローの割引現在価値も時価評価し、「資産-負債の割引現在価値」のリスクとリターンを評価して、最適なポートフォリオを求めると良い。その場合の運用計画のタイムホライズンを決めるものは、やはり、コストその他から決まるポートフォリオの現実的な調整速度だ。

但し、後述の項目で考えるように、将来の目標額を達成する上で個人がコントロールすべきは、資産運用の方法ではなく、もっぱら貯蓄額の変更による(※2)、現在と将来の支出タイミングの調整であろう。

※1 必要があれば、数日で大きくアセットアロケーションを変えることも出来るし、普通の金融商品であれば取引手数料はそれほど大きくない。但し、頻繁な変更は、取引コストのマイナス効果が大きくなるので要注意だ。

※2 企業年金の場合は掛け金の変更に相当する。企業年金の場合も、高めの予定利率を目指して無理にリスクを取るよりも、掛け金の増額(予定利率の引き下げ)で対応する方が健全なケースが多い。

(2)アドバイス対象のお金は、全体の中のどれくらいか?

しばしば不思議に思うのは、そもそもアドバイスの対象として動かそうとしている資金が、顧客の資金全体の中でどれほどの大きさなのか、あるいは、現在及び将来の生活費の必要性を考えた時に、その資金の額は大きいのか、そうでないのかを問う質問が欠けたアンケートの用紙やホームページを見ることだ。

企業年金運用のリスクの決定にあたって最も重要な要素は、年金の財政状態又は母体企業の財務的な強度に起因するリスク負担能力だが、個人の資産運用にも同じ事がいえる。

今、動かそうとしている運用額によって発生するかも知れない損失が、どのようなインパクトを持つのかを評価することは、運用方針の決定の最重要ポイントだと言っていいが、この点に触れずに、運用経験の多寡や、リスクをどれくらい気にするかなどを曖昧に訊いても、適切なアドバイスが出来るはずがない。

私見では、顧客についてこの点を的確に把握し、または顧客自身による把握を補佐することが、FPの運用アドバイスにあって最も重要なポイントだ。

但し、対面型証券会社のラップ運用のようなサービスの場合、顧客は、相手に全財産や収入を知らせることに躊躇するだろう(それは、別の意味でのリスク感覚として、全く正しい!)。これも、対面証券会社のラップ運用が的確に機能しない大きな理由の一つだ。

また、「資産1000万円に対するお勧めの投資配分を書いて下さい」(しばしば円グラフ付き)のような、新聞や雑誌のマネー運用特集記事にもよくある質問パターンも本質的に同様の間違いを犯している。こういった質問に、疑問無く安直に答えるFP(メディアに使って欲しくて仕方がないのかも知れないが)などは、運用の見識がまるで無いことを晒しているようなもので痛々しい。

(3)資金の使用目的は全く重要ではない。

運用のアドバイスをするに当たって、その資金の使途が、老後の生活費なのか、子供の学費なのか、病気などのリスクへの備えなのか等を訊きたがるアドバイザーが、特に、FPに多いように思われるのだが、これは、重要なポイントでは「全くない」。

お金の使い道は後から決めることが出来ることが端的な理由だ。取る事が出来るリスクの範囲内で、効率よくお金を増やすことが運用の問題であり、使い道は関係ない。持っているお金を、何に幾ら使うか、またいつ使うのか、さらには将来使うためにいまいくら貯める(使うのを我慢する)のかを決めるのは、基本的には「別の問題」である。

最適なお金の運用方法は、将来の夢、人生の目的、何らかの問題への備え、といった将来のお金の使途からは基本的に独立に決めることが出来る。

FPが、資金使途を訊くのは、保険など自分が手数料を取ることが出来る商品を売るチャンスを探しているのかも知れないし、顧客に将来の夢などを語らせるのはFPの側が運用について語るべき内容を持っていないからではないかと筆者は推測している。

尚、米国で流行っていて、日本でも一部の大手証券会社が取り入れようとしているらしい「ゴールベース資産管理」(※3)にも、顧客の側から見て、ここで述べたのと同様の無意味さに加えて、経済的な手の内を売り手側に晒す不都合が伴っている。決して相手にすべきサービスではない。

※3 正確にはGoal Based Approach。人生のゴール(目的)を達成するための資産管理アドバイスを標榜するコンサルティング型のセールス・アプローチで、主な提供形態はラップ。近年、米国の証券会社のPBビジネスで成果をあげている(顧客一人あたりの預かり資産と手数料が増えている)。

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