証券コラム

2016/08/02 山崎元「ホンネの投資教室」

第276回 「楽ラップセミナー」でお話ししたラップ運用への評価

7月30日(土)「楽ラップセミナー」開催

当社が主催する「楽ラップセミナー」が7月30日(土)に、東京都千代田区のベルサール半蔵門で開催された。多くの方のご参加を頂き、盛況だった。ご来場頂いた皆様に改めて御礼を申し上げる。

さて、本セミナーで、筆者は、第五部のプログラムのパネルディスカッションに登壇させて頂いた。パネラーは、獨協大学教授の森永卓郎氏、フィナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子氏に筆者の3人で、モデレーターはフリーアナウンサーの叶内文子氏であった。

さて、本セミナーの参加者から事前にお寄せ頂いたご質問の中に、日頃からラップ運用に対して批判的な意見を発表している筆者が、自社のラップ運用商品である「楽ラップ」に対してどのような見解を持っているのか聞きたい、という趣旨のものが複数あった。ご注目を頂いて、まことに有り難いことだ。

当日お越しになることが出来なかった方々のためにも、当日の話の内容を振り返りながら、筆者のラップ運用及び楽ラップに対する見解を改めてまとめてみたい。

公的年金の将来と資産運用

「楽ラップ」用に特注された当社社員用のポロシャツを当日の判断で着て下さった森永氏が口火を切ったが、ディスカッションの最初の話題は、公的年金の将来に関してだった。一昨年に行われた財政検証の結果を見ると、現役世代の収入に対する年金受給者の受給額の比率(「所得代替率」と呼ばれる)で見ると、将来の年金受給者の受取額は、「現在の年金受給者の6掛け」くらいになりそうだ、というご指摘を頂いた。

厚労省の試算は前提を楽観的なものから悲観的な順に並べてケースA~ケースHの8通りで行われたが、最もリアリティのあるケースHでは、所得代替率が4割を下回る。現在の年金受給者の所得代替率は6割強あるので、「概ね6掛け」という想定に違和感はない。筆者も賛成だ。

これを受けて、竹川氏は、近年の確定拠出年金の拡充や、NISA・ジュニアNISAなどの設立は、「自助努力の仕組みは作ったので、国民は各自で老後に備えて下さい」という政府のメッセージであり、これらの制度は税制上有利な運用の仕組みなので、先ず、こうしたものを利用すべきだと述べられた。

再び、筆者も同意見だ。発言順が三番目なので、言いたいことを先に言われやすい巡り合わせなのだが、筆者は、「老後は大変だから、リスク資産で運用して何とかしましょう」という金融機関のセールスに引っ掛からないように気を付けるべきだと述べた。

実際、「老後不安」と「インフレ対策」は運用商品セールスの二大商材であり、将来は大変だと脅して、リスクの大きな商品(リスクの大きな商品は手数料が分厚くなる傾向がある)を買わせて、手数料を稼ぐのが、典型的な手口だ。これらの二つの何れかを強調する人に出会ったら、それが金融機関の人でも、ファイナンシャル・プランナーなどでも「怪しい人かも知れない」と身構えるべきだと強調した。

既存のラップ運用について

さて、ここまでは筆者にとって無難な話題だったが、次に、モデレーターの叶内さんから、「山崎さんは、ラップ運用には批判的だと伺っていますが、既存のラップ運用のどこに問題があったのでしょうか?」という質問が飛んで来た。

「主に対面営業の証券会社のラップ運用で」と断ってから意見を述べたが、程度の差はあれラップ運用一般に該当する内容もあり、「楽ラップ」にも無関係ではないので、正確に話す必要がある。

既存のラップ運用の問題点は以下の通りだ。

(1) 手数料の高さ。ラップ運用自体の手数料(対面証券会社では年率2%前後)に加えて運用管理手数料が高い商品が(主に1%台半ばの投資信託が)運用対象として選ばれており、合計の手数料コストがあまりに高い。

(2) 見えにくい手数料。対面営業証券のラップ運用では、外貨建て商品や債券を売買することで、為替レートや債券売買の値差などに含まれる実質的な手数料を更に意図的に取る事例があること。

(3) 他人任せへの批判。どれだけリスクを取るかも含めて、他人に「お任せ」で運用しようとすることの根本的な無理。(3-A)他人が自分にとって適切なリスクを判断することがそもそも難しく、(3-B)他人なりサービスなりが信頼できるものであることを自分が判断できると考えることの無理、(3-C)運用の中身が把握しにくい「ブラックボックス」になりがちな事、などの解決しにくい無理がある。

結論としては、自分が許容出来るリスクを自分で判断して、自分が理解できる範囲の商品で運用する方が、運用の内容を正確に把握しコントロール出来るのと同時に、低コストで運用出来るので優れている、というのが筆者の見解だ。

筆者のホンネを言うなら、「筆者が書いた本を読んで、楽天証券に口座を開いて、自分で運用すれば、投資家にはラップ運用など要らない!」ということになる。適切なリスク資産の組み合わせは、親切な人がブログででも教えて上げたらそれでいいし、後は個々に適切なリスクレベルを選んで、「投資金額で」調整すればいい。

ちなみに、筆者が自著で(実は本連載でも)説明している運用方法を理解する方が、上記の(3-B)よりも「遙かに」簡単である。信頼できる運用者・運用会社・販売者などを見分ける方法は、プロの間でも確立されていない。運用コンサルタントも、FPもそれが「できるふり」をしているだけなのが現実だ。

この点を理解しようとしない人は、多分単に愚かであるだけでなく、不都合なことを認めたくないという感情が理解を妨げているのだろう。

セミナーでは、ついでに、対面営業の証券会社がラップ運用に力を入れる理由を説明した。それは、近年、金融庁が投資信託の乗り換え勧誘に対して厳しくなったため、別の手数料確保手段を必要とするようになったからだ。

近年、金融庁は、投資家の立場に立つことが、以前よりも明らかに増えた。これは、特筆すべき変化であり、投資家・消費者としても後押ししたい動きだ。

ともかく、以上のような理由により、筆者は、微力ながら投資の啓蒙活動をするに当たって、毎月分配型の投資信託(仕組みとして非合理的で、手数料コストが高く、商品内容が過剰に複雑だ)を長年、「敵視」して来たが、第二番目の主なる敵として対面証券会社のラップ運用を批判したいと思っている。

ちなみに、当日のパネルディスカッションでも言及があったが、竹川氏は、昨年、『週刊ダイヤモンド』誌の資産運用特集号の対談記事で、筆者と共に、最も良くない運用商品・サービスとして「ラップ運用」を挙げておられる。穏やかな語り口で心優しい竹川氏から見ても、「対面証券のラップはひどい」と言うしかない代物なのだ。

では「楽ラップ」への評価は?

さて、お待ちかねの、「楽ラップに対する、筆者の見解」を述べよう。

(注:楽ラップのサービス内容については、以下をご参照下さい。https://wrap.rakuten-sec.co.jp/)

筆者の結論を述べると「最終的には楽ラップも含めて合理的な投資家にラップ運用は要らない。だが、楽ラップは他のラップ運用やバランスファンドと比較して、相対的に優れている」というものだ。

特に運用の方法について学びたい投資家は、資金の一部を楽ラップに投資して、資産配分の方法や、リスクが高まった場合の対処法などの運用の振る舞い方について研究対象としてもいいのではないかというくらいに考えている。

仮に、運用資金を1,000万円持っている投資初心者がいるとする。筆者は、この1,000万円を、まとめて楽ラップで運用するといいとはお勧めしない。例えば、運用資金の中から50万円程度を楽ラップに投資して、楽ラップがどのような運用をするのかを見ながら、一方で、自分が運用を理解する努力をして、最終的に1,000万円の運用を、楽ラップも含んだ形であってもなくても、自分に合ったものへと構築していくといい。

楽ラップの運用は、以下のような特徴を持つ、年金基金のような機関投資家の運用に近いオーソドックスなものだ。

(1) 期待リターンとリスクの前提条件については、資産運用コンサルティングの大手であるウィリアム・エム・マーサー・ジャパン社の提供を受けて中長期的な資産配分(アセットアロケーション)を決定する。

(2) 世界に広く分散投資し、外貨建て資産の分散投資の対象には為替リスク「ヘッジ付き」のものも含む。

(3) 投資対象ファンドは運用管理手数料が低廉な(年率0.2%台半ば程度のものが中心な)投資信託であり、トータルの手数料コストが年率1%未満。

(4) ステート・ストリート・グローバルアドバイザー社の「TVT」(ボラティリティが高まった時にリスクを縮小するプログラム)を利用可能。

マーサ-社は、筆者が運用委員会の委員を務めている国家公務員共済組合連合会(通称「KKR」)のコンサルティングにも参加されているので、筆者は馴染みがあるが、特に年金運用分野で実績があり、予測や分析に用いる手法は極めてオーソドックスだ。

運用対象がリテール向けの投資信託なので、大手の年金基金向けの運用よりも手数料率が高いのは仕方がないが、低コストなものが組み合わせられており、全体として「年金運用風」の印象だ。

また、年金運用の場合、為替ヘッジまで手が回らないケースが少なくないのだが、外貨建て資産の運用で「ヘッジ付き」を選択肢に取り入れている点は丁寧だ。

筆者は、ボラティリティが拡大した時にリスク・レベルを下げるTVTを積極的には評価しないが(この点は、セミナーでも正直に申し上げた)、TVTが発動される場合でも、調整の幅はそれほど大きなものではない。常識的な運用にあって、資産配分はそう頻繁に且つ大幅に変更されるものではない。楽ラップの運用を見て頂くと、運用調節の常識的な「程度」について参考になるのではないだろうか。

楽ラップとバランスファンドとの比較について補足しておこう。バランスファンドでも、ノーロード且つトータルで1%内外の運用管理手数料のものがあるが、バランスファンドの場合、楽ラップのように、投資家個人に合わせた運用内容を提案する訳ではない。また、バランスファンド内の資産の入れ替えはよほどよく注意していないと正確なタイミングや売買内容を把握する事が出来ない。他方、楽ラップでは、個々の投資対象ファンドの売買履歴が残るので、「運用の参考」とする上で情報量が多いし、ブラック・ボックス的な要素がより小さい。

大手運用会社のものや独立系の会社のものと比較するとして、投資家にとって、バランスファンドよりも楽ラップの方が優れたサービスになっている。

「楽ラップ」使い方の注意点・コツ・今後の課題

さて、仮に楽ラップを使うとした場合、投資家はどのような点に注意するといいのだろうか。

第一にして最大の注意点は、楽ラップが運用資産全体の「どの部分」に相当するのかという点の把握と共に使うことだろう。

本連載で何度も書いたことだが、リスクの大きさは、投資対象商品の「種類」ではなく、リスク資産への「投資額」でコントロールすることが、確実で分かりやすく、同時に効率的だ。

厳密には、(1)楽ラップへの投資額が自分の資産の中のどのくらいの比率を占めるのか、(2)それは将来を考えた時にどの程度のリスクを自分にもたらしているのか、(3)さらに他の資産運用と楽ラップとの関係がどうなっているのか、を投資家は分かっていなければならない。

これらは、楽ラップ以外にも、バランスファンドに投資する場合には必要な考慮なのだが、単品のインデックス・ファンドに投資する場合よりも、把握も分析もより複雑になる。「バンスファンドが初心者向けだというのは嘘だ!」という話につながる要素なのだが、楽ラップの利用にあっても、留意したい。

一番普通の使い方は、初心者が楽ラップのみに少額を投資して運用の「感じ」を掴み、その後に自分の運用の全体像を構築するような流れだろう。運用内容と手数料に納得できれば、その後も楽ラップを残してもいいし、楽ラップを卒業して改めて考え直してもいい。

運用全体を考えなければならないという指摘は、バネルディスカッションで、森永氏、竹川氏からもあり、筆者は、両先生の話を聞きながら、その場で、別の思いつきをお話しした。

それは、「リスクは投資金額で調節する」という基本の応用でもあるが、楽ラップを使う場合、出来るだけリスクの大きな配分になるような形に楽ラップを誘導し、この楽ラップへの投資額を調整するのと共に残りの資産で個人向け国債でも買うと、低リスクな楽ラップにより多額に投資するのと似た効果を、より低コストで作ることが出来るという「裁定」が可能だ。

つまり、運用の部品として楽ラップを使う場合には、ハイリスクな状態で使う方が効率的だという、利用法の「コツ」があるということだ。

モデレーターの叶内さんには「山崎さん、自社の商品の手数料の節約法まで話してしまっていいのですか」と感心(?)されたが、楽天証券は度量の大きな会社なので、投資家にとって正しいことは何でも話していいのである。

最後に、楽ラップの今後の課題は何かという話題になった。

この問題については、竹川氏から、確定拠出年金、NISAといった個人が利用した方が得な制度と楽ラップでの運用を総合把握して、全体を最適化するような運用サービスが出来たらいいのではないかというご意見を頂いたが、筆者も同意見だ。

一定以上の所得のある若い方は確定拠出年金を使わないと勿体ないし、投資を行うならNISAも使った方が得な制度だ。これらの口座での運用と、楽ラップも含めた課税口座での運用は、総合的に最適化される必要がある。筆者は、そのための考え方と方法について、本連載や書籍などに何度か書いてきたが、そうした内容がアプリ(現在のロボアドバイザーは、楽ラップも含めて「AI」と言うほど大袈裟なものではない)で出来るようになると、投資家にとって大変便利だ。

楽天証券にとって、「楽ラップ」はこれから改良し進化・成長させて行きたい力の入ったサービスだ。現時点では、他のラップ運用サービスよりも「投資家にとって相対的に優れたサービス」だと考えるが、「ラップ嫌い」の筆者としては、楽ラップを相対的にさらにいいものに成長させつつ、他のダメ・ラップを駆逐することを希望している。

実際には、他社のラップサービスとも、切磋琢磨の関係にあることが望ましいのだが、筆者は「ラップ嫌いキャラ」(=ラップ運用の辛辣な批判者)を皆様から期待されているらしいことをセミナー会場で感じたので、敢えて、憎まれ口で拙文を締めくくることにする。

「楽ラップを地上最後のラップ運用サービスに育てたい!」。

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