証券コラム

2016/12/20 山崎元「ホンネの投資教室」

第285回 バリュー投資の変化と不変と ~ロナルド・W・チャン「価値の探究者たち」(きんざい)を読む~

インタビュー型投資本の正統派

今回は、熱心な投資家のために年末年始の読書に丁度良い新刊本をご紹介しよう。バリュー投資にご興味がある方は、是非、ロナルド・W・チャン「価値の探究者たち」(山本御稔、小林真知子訳、きんざい刊)をお読みになるといい。

本書は、何れもバリュー投資の使い手であるファンドマネージャー12人に対するインタビューをまとめたもので、「投資本」の大きな一ジャンルをなすインタビュー型の本として正統派の系譜に属する。

バリュー投資というと、何といってもウォーレン・バフェットという大スターが有名だが、著者のチャン氏は、そのバフェットを取り上げた「バフェット合衆国 世界最強企業バークシャー・ハサウェイの舞台裏」(船木麻里訳、パンローリング刊)の著者でもあるので、インタビューの随所に、バフェットの言葉やエピソードが登場する。直接インタビューされているのは12人だが、バフェット、さらにバリュー投資の始祖とも言える故ベンジャミン・グレアムも登場人物に加えていいかも知れない。

本書の著しい特色は、インタビュー相手が多国籍に亘ることだ。これまでの、インタビュー型投資本では、圧倒的にアメリカ人の運用者が取り上げられる事が多かったが、フランス人、スペイン人、イギリス人、日本人、中国人(シンガポール在)、などが登場する。また、常に世界を旅するマーク・モビアス(フランクリン・テンプルトン社)のように、新興国市場を主な投資先とするグローバル投資家も取り上げられているので、バリュー投資が地域や市場によってどのように異なるのかということを考える材料ともなる。

本書に登場するバリュー・マネージャー達は、一つには与えられた環境(時代と地域・市場)の差によって、もう一つには本人の考え方・感じ方の差によって、投資スタイルが少しずつ異なる。主な差となるポイントを3点挙げると、以下のような項目だ。

(1) 定量評価と定性評価のウェイト
(2) 銘柄数と集中投資の度合い
(3) 市場の違い(成熟市場か、新興国市場か、デフレ下の日本か等)

バリュー投資家のみならず、インデックス投資家やグロース投資家、あるいは短期の株式トレーディングにご興味のある方にも、気になる内容ではないだろうか。

シュロス型とバフェット型

本書が取り上げる12人のファンドマネージャーは、時代も投資対象地域もバラエティがあるのだが、バリュー投資のスタイルを考える上で、トップに取り上げられているウォルター・シュロスが何と言っても興味深いと筆者は思った。

シュロス氏は、ベンジャミン・グレアムの直弟子で、グレアムの会社にあって当時未だ20代であったバフェットに対して先輩格の同僚でもあった。

シュロスが主に用いた戦略は、彼が「ネット-ネット株」と名付ける、会社が保有する現金・在庫などの運転資本から借り入れを引いたネットの運転資本の価値を、株式の時価総額が下回る銘柄に投資する方法だった。こうした状態にある銘柄を探すために、彼は、かつてのデータの利用が困難だった時代に財務諸表分析に明け暮れた。

グレアムの下で働いた後、シュロスは自分の投資会社を立ち上げるが、そこで用いた方法も「ネット-ネット株」への投資だった。

グレアム流バリュー投資のキーワードの一つに「マージン・オブ・セーフティー」(「本書では安全域」と訳されている)という概念がある。彼は、「株価が運転資本を下回る金額であれば、その差は投資家にとって一種の保険だと考えてもいい」と考え、「株の値下がりリスクに焦点をあわせ、損失を避ける」ことを目指した。

シュロスとバフェットとの大きな違いは、シュロスがバフェットよりもかなり多くの銘柄に分散投資した(50から100銘柄に分散していたという)ことと、彼は財務状況の分析を重視して企業の経営陣と話したり企業のビジネスを深く理解することにウェイトを置かなかったことの2点だ。

シュロスの大変印象的な言葉を引用しよう。

「心のもちようはウォーレンと私とでは異なっている。多くの投資家はウォーレンのようになりたいと思っているようだが、彼はアナリストとして優れているだけではないということを認識すべきだと思う。彼は、人に対してもビジネスに対しても優れた判断を下すことができるのだ。私は自分の能力の限界をわきまえている。だから、自分に心地よい方法で投資するのだ」

この自己認識は大変クールだ。バフェットは、優れたファンドマネージャーであるだけではなく、優れたビジネスマン且つ経営者でもあるのだ。だから、「ビジネスの堀」(バフェットの言葉で参入障壁の喩え)などを深く理解して投資銘柄を絞ることができるし、普段は投資対象企業の応援団であるとしても時には経営に関与することを通じて投資ポジションを守ることができる。

本書に登場するシュロスよりも時代が後のファンドマネージャー達は、何れもベンジャミン・グレアム流のバリュー投資の考え方に共感するとしても、近年の先進国の市場で、グレアムの眼鏡に叶うようなバリュー銘柄を見つけることの困難さを感じている。

バフェットは、ビジネスの評価を通じて表面的な数字だけでは隠れてしまうバリュー株を見つける力があったと言えそうだが、投資先に経営者的な視点で関与しようとすると銘柄数を増やせなかったのかも知れない。

他方、どんなに優れたファンドマネジャーや経営者でも間違えることはある。できることならより多くの投資対象を見つけて分散投資を広げておくに越した事はない。

本書で紹介されているファンドマネージャー達の集中と分散に対するスタイルはまちまちだ。「ほとんどの卵を一つの籠に盛り、その籠を注意深く見守る!」方がより簡単で、より良い方法だと考える人物もいるし、現実の投資につきものの不確実性に対処するためには、マージン・オブ・セーフティーと共に分散投資が大事であり、一銘柄に2%以上は投資しないという方針のマネージャーもいる。

プロアマ共に普通の投資家が真似するべき方針は、資金に制約さえ無ければ明らかにシュロスの方であるように思える。

日本でのバリュー投資

本書に登場する12人のファンドマネージャーは、時に試練と言えるような状況に遭遇しているが、接して来たビジネス環境を比較すると、特に気の毒に思えるのは、バブルのピークだった時期に運用会社を立ち上げ、その後も、デフレという得意な環境の中で運用ビジネスの舵取りをした、日本のスパークス・アセットマネジメント社の阿部修平氏だ。

しかし、阿部氏は、創業時からしばらくの時期に小型株に特化したことでビジネスを軌道に乗せることに成功し、その後1990年代後半からのデフレの時期にはロング・ショート運用を本格的に商品化することで厳しい環境に適応した。阿部氏は、ロング・ショート運用はバリュー投資と矛盾しないという。確かに、その通りだと筆者も思う。

読者の関心の高い日本の市場の話でもあるので、阿部氏を取り上げた第10章は、是非、本書を手に取って読んでみて欲しい。

筆者は、およそ20年前に一度だけ阿部氏にお目に掛かったことがある。運用の職人というよりは、ビジネス感覚の優れた方だとの印象を持ったが、その後の20年を見て、スパークス社の環境への適応は大変立派だったと感じている。

新興国のバリュー投資など

本書には、アメリカ、日本以外に、アジアやヨーロッパの株式市場も登場する。

特に、過去、アジアなどの新興市場では、先進国市場のスケールで見ると暴騰暴落といえる騰落がしばしば起こったし、この傾向は今でも残っている。

時々暴落があるということは、絶好の買いチャンスがしばしば来るかも知れないということなので、バリュー投資家には必ずしも悪くないことなのだが、英米のバリュー投資家のように「私は、マクロ分析などせずに、ボトムアップのファンダメンタル分析に集中する」とすましている訳には行かないようだ。

「規律」と「忍耐」を重んじるバリュー投資の世界にあっても、時と場に応じた柔軟性は必要であるらしいことが、本書から伝わってくる。

個人的には、世界的に次のバリュー投資が来るのは、「しばらく先」(たぶん、アメリカがあと何度か利上げしてマーケットが大きく崩れる時…)のような気はするが、バリュー投資の心構えをあらかじめ作っておくことは悪くない。

冒頭にも記したように、投資家の年末年始の読書に本書をお勧めする。

読者の皆様には、今年一年大変お世話になりました。よい年をお迎え下さい。

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