証券コラム

2017/01/10 山崎元「ホンネの投資教室」

第286回 マクロ経済予測からの運用戦略が上手く行かない理由と対策

運用会社は会議が多い…

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。

さて、年頭に当たって、「運用」について考えてみようと思った。筆者は、過去に数社の運用会社に勤めたことがあるのだが、年頭の運用会社内での会話を思い起こすと、もちろん、今年の「経済と相場」はどうなのかという話になる。この話題は社交的に自然なのだが、「相場」と「経済」を結びつけて考える事がどのくらい有効なのかについては、かなり大きな問題がある。

振り返ってみるに、どの運用会社・組織(信託銀行や生命保険会社の運用部門)でも、実に会議が多かった。生意気な若手ファンドマネージャー(昔の筆者のことだ)からすると、運用会社の会議は、お互いに情報を持っていない同志が情報交換をする「時間の無駄」に近い邪魔なものだ、というのが当時の実感だった。しかし、さりとて運用会社を経営することを考えると、「儀式としての会議」をやらない訳にもいかない。今は、当時の上司に少し同情する。

シンプルに「運用会議」、あるいは「Investment Management Meeting」、「運用戦略会議」など、名前はさまざまだったが、業態や本社の国籍はちがっても、筆者が過去に勤めた運用会社・組織は、一月に一度程度、かなり大人数の会議を催していた。

そして、これらの会議は、通常、前半に国内及び海外のマクロ経済に関する議論を行う。今後どのようなことが起こりそうだから、資産配分や国内株式のセクター(業種)戦略などがどうあるべきかといった大枠の運用戦略を論じる。そして、その後に、アナリストによるもう少し細かな各論(若手アナリストにプレゼンテーションの機会を与える「教育」の意味合いが大きかったように思うが)が展開されて、出席している偉い人(傾向として辛抱強い人が多いので付き合うのは大変だ)が、さすがに飽きる頃に聖なる大会議が終わるのが常だった。

どの会社でもマクロ経済の議論が冒頭にあるのが普通だった。では、マクロ経済の議論が運用戦略の立案に有効なのかというと、率直に言ってそうではない(理由は後述)。

しかし、マクロ経済の予測を中心とした議論から運用戦略を説明すると話の筋を作りやすいし、また、運用会社が、マクロ経済を議論することには、(1)自分達が高度な議論を行っているというプライドの醸成、(2)誰でも意見を言いやすいマクロの議論を通じた仲間意識の涵養、(3)顧客向けに話をする際のネタの仕入れ、といった経営的・組織管理的な現実的効用があるのだ。

運用会社の内部の視点から言うと、マクロから運用に至る議論は、顧客や素人向けのプレゼンテーションのために、ひとわたり述べるために必要なものであって、それが直接ポートフォリオを動かすようなものであってはならない。実際の運用戦略の立案のためには、「別の一ひねり」が必要であり、重要でもあるのだった。

マクロ予測が運用の役に立ちにくい理由

現実のファンドを運用しているファンドマネージャーの多くは、運用会社内でのマクロ経済の予測や予測を巡る議論が、運用の役に立たないことを感じている(そのくらいの「感性」があるとは思いたいものだ)。

そして、現実に、組織内で幾重にも検討を経たマクロ経済予測に基づく、例えばアセット・アロケーション(資産配分)などの運用戦略は有効ではないことが多いのだ。

もちろん、常にダメで反対だという訳ではない。むしろ、常にダメだということが分かるとマクロの予測も投資の参考になるのだが、「当たり外れがでたらめで、ポートフォリオの調整にはコストが掛かる」という条件がパフォーマンスには不利なのだ。

そして、素人投資家(大事なお客様だ)には言いにくいのだが、運用業界内では、マクロ経済の予測に基づく運用戦略が幸運以外の理由では、なかなか上手く機能しないことが、大凡常識なのだ。

では、なぜ、マクロ経済予測は運用戦略の役に立たないのか?

理由は、概ね四つある。

第一に、マクロ経済の予想自体が難しいことだ。特に、「意味のあるレベルで」当てることが難しい。

些か短期の材料に過ぎるが、分かり易い例は米国の雇用統計だろう。ほぼ毎月一度、マーケットでは米国の雇用統計が大いに注目される。日本の首相が頻繁に変わっていた頃には、日本の首相交代のニュースよりも、米国の雇用統計の方が、為替レートにも株価にも大きな影響を与えることがあった。

だが、雇用統計は、「増えるか」・「減るか」のレベルで当てても仕方がない。増える情勢にある場合には、市場参加者のほとんどが「増加」を予想しており、何万人増えるのかをできるだけ正確に当てることが競争上の問題になるのだ。他人よりも正確な数字を予測することは、大半の市場参加者にとって難しい。

日本のマクロ統計を考えるとしても、GDPも日銀短観も、運用も競争である以上他の市場参加者よりも正確に予想しないと意味が無いが、これは難しい。

さて、仮に予想が他人よりも当たりやすい能力があるとしても(これは、たぶん「強すぎる仮定」だが)、第二に、マクロの統計と株価や為替レートなどの「マーケットの価格」の相関関係が不安定であることが困難をもたらす。

たとえば、発表されたGDP成長率が高いと、その国の株価が高くなるかというと、そう簡単ではない。もともと、一つの経済指標と株価などのマーケット価格の関係は、そもそも不安定だし、正しく推定することは簡単ではない。たとえば、金利との関係が影響する場合もあるし、過去に市場参加者の間で形成されていたGDPの予想が影響する場合もある。

第三の困難は、自分の予想が他の市場参加者の予想とどのように異なるかの把握が難しいことだ。自分の予想が仮に正しかったのだとしても、他の市場参加者も同じ予想を元に行動しているのだとすると、自分が儲けることは簡単ではない。

そして、第四の困難として、そもそもマーケットで形成される相場には、その時の需給や制度的な損得、さらには投資家が織り込むリスクプレミアムの変化などマクロ経済以外の要因が関わる場合が多いことが挙げられる。

かくして、マクロ経済の予想から、運用戦略を考えても、有効なアプローチになりにくいのだ。

しかし、前述のように、運用商品・サービスのマーケティングの際の説明には、マクロ経済から説き起こす話が有り難そうに聞こえるし、運用成績が不首尾だった時の顧客向けの説明にはマクロ指標の何か一つか二つを(全てではなく…)見誤っていたとの説明(実質は無反省な「言い訳」であることが多い)が好都合な場合が多い。

マクロ予測に依存しない投資戦略は?

さて、マクロ経済の予測から投資戦略を考えるアプローチがダメなのだとすると、「経済評論家」を名乗り、同時に運用に関するアドバイザーでもあろうとする筆者のような存在はいかにも「役に立たなそうに」思える。

その考えは、あながち間違っていないのだが、いくらか悔しいので、マクロ経済予測に依存しない(むしろ依存を意識的に避ける)投資の考え方を幾つかご紹介しよう。

基本的な考え方は、マクロ経済の予測が役に立たないなら、その要因を中立化して、別の要因で勝負する、ということだ。不確実性を伴う勝負事では(ある意味では「人生」もそうだ)、コントロール出来ないことは敢えて無視して、いわば確率に委ねて、自分が有効にコントロール出来るかも知れないことに注力することが有効だ。

一つ目は、個々の企業なり、あるいは債券に対する株式なりの「あるべき価値」と「現在の価格」のギャップに注目する、ご存知「バリュー(Value)投資」だ。有名投資家ウォーレン・バフェット氏は「全ての投資はバリューに投資するのであって、『バリュー投資』という言葉には重複感がある」と述べたそうだが、そこまで力まぬまでも、投資の基本である。

もちろん、「あるべき価値」がマクロ経済の動向から影響を受けざるを得ないのだが、マクロ経済予想に依存しない自分なりの価値の尺度を持って、これを頼りにポートフォリオを作るのだ。

二つ目の方法は、「個別」の分析の積み重ねによってポートフォリオを作る方法だ。「株式を買うとは、個々の企業を買うことであって、株価を買う事ではない」といった考え方がこれに近い。この気分に浸りたい方は、こちらも有名投資家のピーター・リンチ氏が書いた書籍などを読まれるといい。

この方法では、個々の企業のビジネスを成長性も含めて評価して投資することを積み重ねる。分散されたポートフォリオを通じて、自分の「ビジネス評価能力」が他の市場参加者よりも優れていることに賭けることになる。

但し、先のバリュー投資でもそうだが、プロのポートフォリオ運用では、ポートフォリオ全体のバランスが何らかの要因に偏らないように、バランスをコントロールする必要がある。分かり易い例でいうと、個々に「いい!」と評価した企業の株を集めてみたら、円安の可能性に偏って賭けているのと同じ意味が濃厚だったというようなアンバランスを避けねばならない。マクロの予測に頼らないからといって、リスク面でマクロの影響を無視して良い訳ではないのだ。

第三の方法は、リスクプレミアムの存在を信じて何もしないことだ。個人投資家で言うなら、インデックス・ファンドをじっと持つ投資法がそれに近い。

マクロ経済の予測に従ってポートフォリオを動かしても上手く行かないのだとすると、長い目で見ると、「マクロ予測に左右される人」は「何もしない人」に較べて取引コスト分相対的に損をするはずだ。

「最小分散ポートフォリオ」(注:分散投資しないという意味ではなく、リターンの分散で測ったリスクを最小にするポートフォリオ構築法を指す)や「高配当」など、何らかの要因に賭けた運用戦略も考え方が近い。

プロの運用者の場合、インデックス・ファンドだけ運用しているのではお金になりにくいので、何らかの「一ひねり」をアピールしたくなるが、裏には「マクロで右往左往する奴は相対的に損をする」という期待がある。

第四の方法は、イベントの評価のギャップに注目する方法だ。

個別銘柄への投資で言うとポジティブでもネガティブでもニュースがあった時に、ニュースの価値を評価して、その銘柄の株価の変化がニュースの価値に見合っているかどうかを検討するのだ。イベントは、M&Aのようなものである場合もあるし、新製品、事故、不祥事など、さまざまだ。

これらの中では、有望な新製品や新サービスは注目されやすいが、将来の経済的な効果を推定することが難しい場合が多く、意外に使いにくい。たとえば「工場の事故」のような、確実にネガティブだが、被害の大きさを評価しやすいイベントはチャンスになりやすいと申し上げておこう。事故の被害額を余裕を持って多めに見積もってこれを発行株数で割った値よりも大幅に株価が下がったとすると過剰反応、即ちチャンスである可能性が大きい。

不祥事も同様に計算できる場合があるが、不祥事の質によるので注意したい。いわゆる「不適切会計」でも、オリンパスのケースでは事件発覚後にはごまかしの額が概ね確定していたし、医療機器関係のビジネスの価値が安定していたので、「下げ過ぎは買い」と判断しやすかった。しかし、最近問題になっている東芝のケースでは、意図的に行われた不正が次々と明るみに出ていて、言わば「底無しに悪い」感じがするので(注:筆者の個人的な評価であって、楽天証券の意見ではない)、評価が難しく手を出しにくい。

個別銘柄以外のもう少し大きな運用戦略の単位では、昨年の英国のEU離脱のようなケースが「過剰反応への逆張り」でアプローチしやすいケースだったように思う。

以上、マクロ経済の予測に依存しない投資法の手掛かりを幾つかご紹介したが、読者のご参考になると幸いだ。

一方、マクロ経済の予想からアプローチする投資法は役に立たないと言いつつも、筆者は、今年もマクロ経済についてあれこれ論じることになるだろう。「役に立たないかも知れないが、参考にはなる」というくらいに思ってお付き合い頂けると幸いだ。

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